夢物語
 それから数年間、私はフリーな身分のような自由を謳歌したまま、優の彼女のポジションを維持し続けていた。


 付き合いが長くなると、周囲も「このまま結婚しないの?」などと訊いてくるようになる。


 次第に三十という大きな節目が近づいてきたこともあり、ますます訊かれる機会も増える。


 そのたびに私は、「まだ先です。お互い自分のことで手いっぱいで……」などとお茶を濁してきた。


 本当のところは……?


 結婚して、いずれ家業を継ぐであろう優と運命を共にする自信がまだなかった。


 それに肝心の優が、私に対し結婚をほのめかす言動が、付き合って以来皆無なことも私を不安にさせていた。


 実は優は、離婚経験者。


 過去の失敗によって慎重になっているのだろうと思い、当初はさほど気にしていなかった。


 だけど。


 時間の経過に連れて、私も次第に不安になってくる。


 私たち……本当にこのままでいいの?
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