夢物語
 「……さっきの買い物分の、料金徴収ですが」


 宴もたけなわな頃合いを見計らって、西本くんが私に相談してきた。


 「松元さんはご自宅を会場として提供してくれたから、徴収しないとして。他の参加者数で合計金額を割ると、端数が出るんですよね」


 私も携帯電話に付属の電卓で割り算をしてみたところ、割り切れない上に、端数を切り上げもしくは切り捨てしても小銭じゃらじゃらになる金額。


 「どうしようか。小銭だらけになっても大変だし、みんなからは区切りのいい金額を徴収するようにする?」


 端数だけ松元さんからもらおうかとも考えたのだけど、


 「徴収金額は一人千円にして、この端数は僕が払いますね」


 私があれこれ考えている間に、西本くんは財布から端数分の小銭を取り出していた。


 「でも一人千円で残りの端数西本くん負担なら、西本くんだけ二千円近い負担金になるんじゃない?」


 みんな同じくらい飲み食いしているし、西本くんだけが負担するくらいなら私も半分負担しようかと言いだす前に、


 「……独身に戻ってから、自分で使えるお金に余裕ができたんですよ」


 「えっ」


 ここで突然独身宣言、つまり離婚の事実を告げられて動揺した。


 笑顔のままで。


 他のメンバーはそれぞれの話題に夢中で、私たちの話している内容に気付くはずもない。
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