夢物語
 「よ、よく聞こえなかったんだけど。もう一度言ってくれる?」


 私は上体を起こし、シーツにくるまりながら尋ねた。


 「もう別れた方がいいと思う」


 優は体を横たえたまま、こちらを見ずに答えた。


 「は? 何言ってんの。意味分かんないし」


 私は思わず苦笑い。


 冗談だとしても悪質だし、ふざけてるのだとしてもこんな時にいうべき言葉じゃない。


 だってさっきまで私たちは、恋人同士として濃密に身体を重ねて……。


 「付き合い始めた頃に俺が言ったの覚えてる? 互いに次のステップを見つけるまでは、一緒にいようって」


 「何となく」


 「お互いそんな結婚願望とかあったわけじゃないし、互いの猶予期間はとりあえず付き合ってみようかって」


 「確かにそう聞いたけど!」


 バーで偶然隣のテーブルになって。


 意気投合して連絡先交換して、その後二人きりで会うようになって、いつしか特別な関係に。


 その頃は私も若かったし、今すぐ結婚だとか将来だとかそこまでは考えられないといった話をしたところ、優も過去に失敗歴があるから、次は慎重になりたいしまずはゆっくり考えていこうって、付き合い始めた時に交わした約束。


 何気ない当時の口約束が、今となって私を脅かす結果に?
< 240 / 302 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop