夢物語
 「ていうか、なんなの突然? 付き合いだした時は、確かにそういう話だったけど。今いきなり別れたくなるってことは、なんかきっかけがあるんでしょ? 言ってよ」


 「いや、別に」


 「大して理由もなく別れてほしいって言われて、はいそうですか、ってなるって思うの!?」


 さっきまでの甘い時間が一転。


 突然の雨のような別れ話に驚きを隠せなかったけれど、冷静になって来るにつれていろいろ考えが浮かんだ。


 もう気持ちは離れていたのかもしれないけど、形だけでも体を重ねることができたのだから、私に遭いたくないほど嫌いになったわけではないはず。


 にもかかわらずあえて別れ話を切り出してきたのは……。


 私以上に大事に思う人がいるからだ。


 高橋冴香。


 しばらく二股かけて様子見をしていたようだけど、ついに私より高橋冴香のほうが大事だって結論付いたのかも。


 でも私が黙って身を引くとでも思っているのだろうか。


 「納得いかない。そんなに重要な決断するなら、私を納得させられるだけの理由を言ってよ。説明してよ!」


 「俺は結婚願望ないし、志穂も俺と結婚するつもりはない。最初から空き時間を埋めるための付き合いって約束だったよな。それが何年か続いたけど、このままズルズル続けるよりも今別れた方が、志穂も手遅れにならなくて済むんじゃないか」
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