夢物語
 暖房を付けて、部屋が暖まるのを待つ。


 一人の部屋の中、今日一日のことを時系列順に振り返る。


 昼間は普通に過ごして、夜遅くなってから優の部屋に行って、今まで通り恋人同士の時間を過ごしていたところ一転、予想外の事態に。


 あの口調からして、優はずっと前から計画していた?


 私を切って、高橋冴香を選ぶことを。


 「……」


 部屋の化粧道具の脇にある小箱を開けた。


 指輪が入っている。


 正式な婚約指輪とかではなくて、優と二人で沖縄旅行をした際に、通りすがりの国際通りの物産店でねだって買ってもらった指輪。


 赤い宝石が綺麗で、どうしても欲しくなって。


 結婚願望のない二人だけど、これが事実上二人の今後を暗示するアイテム。


 そう信じていた。


 いや……結婚願望がないなんて嘘だった。


 付き合いが何年か続くうちに、このまま一緒にいることがあたりまえだと信じて疑わなかった。


 今は結婚なんてあり得ないと思っていても、ずっと時を共に過ごしていけばいずれ自然と結婚というゴールが見えてくる……はずだと心のどこかで確信していたんだ。


 もう何年も一緒で、お互い離れたい要素はなかったんだし、今さら優のいない未来なんて存在しないものと思っていた。


 それが今……。
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