夢物語
***


 結局一睡もできないまま朝を迎えた。


 一年で一番夜が長いため、六時を過ぎてもまだ真っ暗。


 七時前になってようやく、東の空の色が変わってきたのを感じる。


 もう一度、自分の気持ちを整理する。


 このまま現実を受け入れるか、何らかの方法で抗うか。


 優の性格からして、あんなことを口にした以上、翻意することはあり得ないと思う。


 私もプライドがあるので、泣きついてまでよりを戻したいとすがることはないけれど……。


 このままじゃ悔しすぎる。


 絶対に泣き寝入りするつもりはない。


 付き合い始めた頃は、お互いお試し期間みたいな感じで、結婚を前提とはしないライトな関係を目標としていた。


 私も若かったから結婚なんてまだまだ先の話だと思っていたし、優は優で一度失敗しているから次は慎重になりたいとのことで、もう一度……って気持ちにはすぐにはなれないと話していた。


 まるで学生時代の交際みたいに、何となく付き合い始めた私たちだったけれど、期間が長くなってくるにつれて、いつしか気持ちは変わっていた。


 少なくとも私は。


 この年齢で付き合いが長期化してくると、当然「結婚」というものがちらついてくる。


 周りも頻繁に「結婚はまだ?」的な問いかけをしてきて、その都度「今はまだ……」と笑って返してはいたけれど、内心は「もしかすると……」と感じていた。


 ここまで長い間一緒にいれば、もしかしたら優の気持ちも変わって来るんじゃないかと思っていた。


 ただし口にするのは、怖くてできずにいた。


 夢が覚めてしまいそうで……。


 もし最悪の答えが返ってきたらと、考えるだけで怖かったから。


 それによって優が離れていくようなことがあったら……と心配だった。


 今さら一人にされて、また他の誰かと一からやり直すのは正直ハードだと分かっていたから。
< 246 / 302 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop