夢物語
 いろいろな意味でもやもやするので、この気持ちを何とかぶつけてやろうと体育館の中に入ることにした。


 不思議と躊躇することはなかった。


 このまま自由な身の上になってハッピーエンドだなんて、そうはさせない。


 思い知らせてやりたかった。


 体育館の玄関の扉を開け、土足で中に入った。


 さらに玄関フード、そして体育館内部へと入る扉が二回あって、ようやく体育館の中にたどり着いた。


 「!」


 優が中二階みたいなところで、遮光カーテンを閉めているのが見えた。


 向こうもこっちに気付いたようだけど……お化けでも見たような表情だった。


 ほぼ同時に高橋冴香の姿を確認する。


 主婦数人の輪の中で、あれこれ指示を下しているようだけど。


 ……周囲の人が皆、脇役に見える。


 この集団の中心にいるのは紛れもない、高橋冴香。


 言葉では上手く表せないのだけど、存在感が周囲の人とは違って見える。


 「……おはようございます?」


 私の顔を見ても分からないようだけど、私が自分を見ているのには気が付いたようで、挨拶をしてきた。


 参加者の一人くらいにしか思っていないのかも。


 私は無言でさらに近付いた。


 「参加者の方ですか? すみませんが上靴に履き替えてもらえますか」


 冬靴で目立ったため土足であることがばれたようだけど、これからどんな目に遭うかも知らないで、呑気にそんなことを……。
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