夢物語
 「そういえば西本さん、食事はどうしてるの?」


 母が西本さんに尋ねた。


 「それが……。私はどうも料理が苦手で」


 「僕が作ってます」


 朝は父親の分もトーストを焼いて、昼は給食があるため父はコンビニ弁当、夜は優くんが夕食を作るか、部活動などで遅くなった際は出前を取っているようだ。


 「毎日それじゃお金もかかるし、優くんもいずれ受験生となるんだし大変よね……。そうだ、うちに食べに来たら?」


 母が提案した。


 「えっ、そこまでは」


 さすがに西本さんは遠慮したけれど、


 「いや、我々も相談したんだけど、困った時はお互い様だし、お前も残業や接待で遅くなることも多いだろ? 優くんのためにもこれが一番いい方法だ」


 「本当に大丈夫ですか? 確かにありがたいお話しですので、お言葉に甘えたいですが……。もちろん食費はこちらで負担させてください」


 それをきっかけに、西本さんが遅くなる日は優くんを預かって夕食を食べさせたり、時には親子で招いて食事をご一緒する機会が増えた。


 母も料理が好きで、大人数に振る舞うことができて満足していた。


 「優くんはいずれ、西本の跡を継ぐのか?」


 ある日父が優くんに尋ねると、優くんは戸惑った表情を見せて、代わりに西本さんが答えた。


 「いや、まだそこまでは考えていないんですよ。本人も今後、何かやりたいことが見つかるかもしれないし。大学を卒業するまでの間に、将来を決めてもらえたら」
< 263 / 302 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop