夢物語
 「真由先生は高校を決める時、どんな風に決めたの?」


 家庭教師活動を始めて、いつしか優くんに「真由先生」と呼ばれるようになっていた。


 優くんが中学二年生になった当時、私は大学三年生。


 必修科目は二年生までにほぼ履修していたため授業数が減ったものの、ゼミが始まったり来年の就職試験へ向けての準備などで気は抜けない。


 アルバイトは単発なもの以外は、優くんの家庭教師のみにしておいた。


 「私は……。通学に負担がかからない程度の距離の中から、偏差値的に無理のない学校を選んだ感じかな」


 「そうだね。授業終わって部活終えてそれから片道二時間……とかなら、家に帰ったらもう夜更けだしね。そうだ、真由先生は部活は何やってたの?」


 「私は特に運動部には入ってなくて、高校の時はどこかに入部しなきゃならない雰囲気だったから、文科系の図書部に所属した」


 「本が好きなの?」


 「うん。何となく」


 「だから教育学部の国語科で、図書館司書志望なんだね」


 「本当は専門の国文学科に入りたかったんだけど」


 「どうしてそっちに進まなかったの?」


 「北海道内では国公立の国文科は一か所しかなくて、そこはレベルが高すぎて合格できなかったから」


 「えーっ、そんなに大変だったんだ」


 「私が受験生の頃は、今より子供の数が多かったから。受験が過酷だったんだよね。今もそれなりに厳しいと思うけど。そして浪人生活は大変だったから。優くんは絶対しないほうがいいよ」
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