夢物語
 辺りが暗くなってからも炭の周りで飲食やお喋りを楽しみ、完全に日が沈んだ後は花火を始めた。


 他のログハウス宿泊客の迷惑にならないよう、打ち上げ花火は禁止されていたけれど、線香花火などの手持ち花火は大丈夫。


 私と優くんで大部分費やしてしまった。


 「まるで姉弟(きょうだい)みたいね」


 母が微笑みながら告げる。


 「私も優くんも一人っ子だから、これからもずっと姉弟みたいに仲良くできるといいね」


 私の世代はまだ一人っ子は少数派で、友達の大多数は一人か二人きょうだいがいたので、羨ましく感じていた。


 同年代の親戚も、近場にいなかったこともあって。


 八歳年下の優くんは、まるで弟。


 きょうだいってこんな感じなのかと、その頃は考えていた。


 「西本の奴も、だいぶ明るくなってきてよかったよ」


 父がそんなことを口にした時、従業員に電話連絡するとかで西本さんはログハウス内の電話を使っていて不在だった。


 会社経営者なこともあり、当時すでに携帯電話は所持していたと思うのだけど、森に囲まれたこの場所では電波状況が悪く、圏外。


 部との連絡は、ログハウス内の固定電話が頼りだった。


 「一年が過ぎて、忙しい日々の中で徐々に悲しみも薄れていくはずだしね」


 まだ亡くなって一年なのに、仕出し業者から連日三回忌の料理に関するセールス電話がしつこくて困っていると、さっき西本さんは苦笑していた。


 三回忌って亡くなって三年経った時だと思い込んでいたけれど、セールス電話の相手に「三度目の命日」のことだと教えてもらったとも。


 つまり三回忌はもう来年。
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