夢物語
 私が「よかった」とつぶやいた理由。


 それは……西本くんに彼女はいることが発覚したから。


 別に彼の幸せを願ってとか、新たな安らぎを見つけたことに対する安堵とかそういうわけではない。


 ……このままだったら、好きになってしまいそうだったから。


 実際周りに散々冷やかされていたし、そのような雰囲気に流される形で、私もその気になってしまっていた可能性がある。


 彼のあの優しさは……ある意味罪深い。


 実際私も、あの優しさは私だけに向けられているものと勘違いしてしまいそうになった瞬間もある。


 それは大きな間違いなのに。


 本気にしてしまいそうだった。


 彼は自覚してるのか無意識なのか分からないけれど、凶器であることを認識しないうちに、どこかで誰かを傷つけているのかもしれない。


 危ないところだった。


 このままならばまた……大きな傷を負ってしまうところだった。


 何もかもが未遂で終わったことに一安心しているうちに、自宅にたどり着いていた。
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