夢物語
　ちょうどその時期、奥さんは出産のため自宅に帰省していた。


　しかしながら、出産後しばらく経過してもなかなか新居に戻って来ていなかった。


　当時は「ゆっくり静養している」との説明にさほど疑問は抱かなかったものの、今でいう「マタニティブルー」の一種だったようだ。


　できちゃった結婚というスタートラインもあって、産後の憂鬱な毎日を過ごすうちに奥さんは些細なことで怒るようになり、夫婦仲もギクシャクし始めていたらしい。


　そのような事情は全く知らなかったものの、「久しぶりの一人暮らしの寂しさを紛らわす企画」と称して、男はサークル仲間に招集をかけて、時折一人留守番中の新居にて鍋パーティーなどを企画した。


　何度目かの集まりを終えて帰宅途中。


　車を運転して、一人帰宅途中の私の携帯に着信があった。


　ちょうど赤信号で停車中だったため、ディスプレイを帰宅すると、男からの着信。


　何だろうと電話に出ると、


　「冴香ちゃん、忘れ物があったよ」


　「え、何ですか」


　「免許証。さすがに次回の練習まで預かるってわけにはいかなよね」


　「今すぐ取りに行きます！」


　当時も車通勤だったし、しばらく無免許運転が続くのはまずい。


　男の家まではまだ五分くらいで戻ることのできる距離だったため、引き返して免許証を回収することにした。
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