夢物語
 「すみません。いつの間に落としたんでしょうね?」


 すぐに男の新居であるマンションに引き返し、ブザーを鳴らすと男が出てきた。


 飲み食いしている間に、免許証の入ったケースを出すことなどないし、会計の際財布を出した時にでも間違って飛び出したのだろうかなどと推理し、さほど不自然にも感じなかった。


 「こっちから届けてもよかったけど、ビール飲んでるしね。申し訳ないけど引き返してもらったんだ。せっかくだからお茶でも飲んでいかない?」


 「はい、ではお言葉に甘えまして」


 そんな展開で、さっきまで鍋パーティーが開催されていたリビングへと戻って来た。


 参加者一同で後片付けは済ませているので、綺麗に片付いている。


 さっきは参加者が多く、話題もおちゃらけた話に終始してしまい、肝心の競技に関する悩みなどには言及できなかった。


 伸び悩んでいる競技への悩みを、どうしても聞いてもらいたくて、私は再びリビングへと戻って来たのもある。


 「冴香ちゃん。……しようか」


 キッチンから戻って来た男は約束のお茶など手にしておらず、そのまま私は……。
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