夢物語
 「もしかして俺が……。初めての男だった?」


 それは、遠い冬の真夜中。


 氷点下十度近い夜だったけど、部屋の中は暖房が利いていて暑いくらい。


 そんな真冬の夜、私は初めてを強引に近い形で奪われた。


 心から信頼している人に抱かれているにもかかわらず。


 初めての経験は痛みを堪えるのみで、感動している余裕などなかった。


 私の慣れない仕草で、男は私に経験がないことを悟ったようで、途中からはかなり優しくしてくれたものの、痛みからは逃れられなかった。


 「冴香ちゃんの初めてになれてよかったよ」


 私も……。


 痛みに覆われながらも私は、この人に初めてを奪ってもらえてよかったと心から感激していた。


 このまま一生この人のそばにいられたらと、心底願ったりもしていた。


 もうこの人は私のもの!


 奥さんの存在も罪悪感も、いつしかどこかへ吹っ飛んでいた。
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