夢物語
　「そう……なんですか」


　その情報を小耳に挟んだ時。


　……メンバーの離婚というビッグニュースにもかかわらず、私はさほど驚きはしなかった。


　西本くんは、うちのサークルの若手男子中、最大級のイケメンと言っていいほどの存在。


　ジャニーズの誰だかに似ているって騒いでいる人もいたようだけど、私はさすがにそこまでは思っていなかった。

　人当たりもいい好青年なので、女子メンバーからの評判は最高。


　加入は私より後だけど、確かその頃すでに彼女がいて、その後彼女と結婚したとは聞いていた。


　普通に結婚生活を送っていると思いきや、いつの間にか離婚していたらしい。


　私が驚かなかった一因は、何となく予兆を感じ取っていたからかもしれない。


　ずいぶんと物わかりがいい奥さんだとは思っていた。


　サークル内には他に結婚した男性もいるけれど、結婚、出産などを経るとなかなかサークル活動に重点を置けなくなっていく。


　家庭を顧みずに趣味にうつつを抜かしていたら、まず家庭内から大ブーイング間違いなし。


　独身時代の生活習慣は、大きな変革を余儀なくされる。


　が、西本くんの場合は。


　あまりに妻である人の存在感が希薄であり過ぎた。


　妻帯者とは思えないくらい、友達付き合いがいいというか家庭の匂いを感じさせないというか。


　エアーバンドならぬエアーワイフじゃないの？　とか言って、よくからかっていたっけ。
< 4 / 302 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop