鬼畜な兄と従順な妹
 そして俺は思い出した。大型連休におじさんは個展を開き、その時に高額なオファーがあった絵があり、しかしおじさんはどうしても手放したくなくて、その絵を売らなかったという話を。

 その絵こそが、今ここにある、母さんの肖像画ではないだろうか。

 気付けば、母さんの肖像画はその1枚だけではなかった。大小様々な母さんの絵が、その部屋にはいくつもあった。

 そう言えば、母さんが亡くなり、幸子が村山の家に来るまでの半年間、おじさんはうちに来なかった。俺がそれを言うと、確かおじさんは絵を描いていたと言ったと思う。これらの母さんの絵は、その時に描いたものなのだろう。亡くなった母さんを偲んで。

 つまりおじさんは、密かに母さんの事を想っていたのだと思う。そしてもしかすると、それは決して考えたくはないが、母さんもおじさんの事を……

 つまり母さんは、おじさんと不倫していたのかもしれない。そういえば、母さんはよく一人で出掛けていた。時には泊まりで……

「お兄ちゃん、大丈夫?」

 俺は目眩を覚え、足元がふらついてしまって幸子に支えられていた。

「ああ、大丈夫だよ」

 幸子には何の関係もない話なわけで、俺はそう言うほかなかった。

「やあ、待たせたね」

 そんな呑気な口ぶりで現れた田原のおじさんを、俺は問い詰めてやろうと思ったのだが、おじさんの顔を見た俺は、たぶん幸子もだが、固まってしまった。
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