鬼畜な兄と従順な妹
「うそ。田原さんって……お兄ちゃんとそっくり!」

 そうなのだ。本人の俺でもそう思った。髭をすっかり剃り落とした田原のおじさんは、俺がもう少し歳を取ったらこんな感じかな、と思えるほど俺に似ていた。

「そ、そんな、ばかな……」

 俺は再び目眩を覚え、今度は立ってるのもきつくなり、幸子に支えられて壁際のソファに座った。幸子と一緒に。

「だいぶショックが大きかったようだね?」

 おじさんは木の椅子を持って来て、俺達の前に座ったのだが、

「声も、お兄ちゃんと似てる……」

 そうなのかな。俺にはわからないけども。

「俺はおじさんの子どもなんだね? つまり、母さんが浮気して、俺は生まれたんだ」

 あ、そうか。それなら確かに、俺と幸子は兄妹じゃないな。

 結局は俺も幸子も、浮気で出来た子ども同士という事か。兄妹じゃないのは良かったが、あまりにも情けない話じゃないか。ここは笑うところかな。なんて、笑えるわけもないが。

「半分はそうだが、半分は違うよ。断じて」

 田原のおじさんは、変な事を言った。ふざけてるわけではない、と思うけども。
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