鬼畜な兄と従順な妹
 でも、お兄ちゃんにしてみれば、確認しておきたい大事な事柄と思われ、私は固唾を飲んで父の返答を待った。

「当たり前じゃないか。啓介には悪いが、私はおまえの事をずっと本当の息子だと思って来たんだ。それはこれからも変わらないよ」

「ありがとう、父さん」

 途端にお兄ちゃんは涙ぐみ、私の目からも涙が溢れてしまった。

 のだけど、ちょっと待って。それはお兄ちゃんと私にとっては、とても都合が悪いのじゃないかしら。

 という事で、私はお兄ちゃんのトレーナーの袖を指で摘まんで引っ張った。

「なんだよ?」

「ちょっと、向こうで話さない?」

 私はお兄ちゃんにそっと耳打ちした。

「お、おお」

 母や父や田原さんがキョトンとする中、私は3人にペコリとお辞儀をして、お兄ちゃんを3人から十分に離れた所まで引っ張って行った。

「どうしたんだよ、幸子?」

「あのね、さっき、お父さんはお兄ちゃんに言ったよね? お兄ちゃんの事、本当の息子だと思ってるって」

「ああ。そう言ってくれたよな?」

「まずくない?」

「何が?」

「だって、私はお父さんの娘でしょ? つまり、お父さんの中ではお兄ちゃんと私って、正に兄妹って事でしょ?」

「あ、確かに。それは非常にまずいかもしれない」

「どうしよう……」

 やだ、また涙が出てきちゃった。
< 106 / 109 >

この作品をシェア

pagetop