鬼畜な兄と従順な妹
 少しして、父が迎えに来てくれた。まるでゴルフの帰りにちょっと寄ってみた、みたいに見える軽装で。程よく日焼けしたお顔で、白い歯を見せて微笑む父は、やっぱり素敵。もちろん父を迎える母の目は、ハート型になっていた。抱き着いてもいいのにな。

 私がボストンバッグを持とうとしたら、黒服の人がにゅっと手を伸ばした。

「私がお持ちしますので」

 いつもの、父の運転手さんだ。私はこの人は、ちょっと苦手。だって、時々だけど、母や私を、汚いものでも見るような目で見るから。

 もう一人、若い男の人も来て、私達の荷物を運んでくれた。いつもの黒塗りの高級車の他に、荷物を積むための白いワゴン車も来ていて、その男の人はそっちの運転手さんらしい。まだ見ぬ”お兄さん”ではないと思う。たぶん。

 私は車に揺られながら、半分だけ血の繋がった”お兄さん”の事を想った。父からは名前も聞いていないし、”真面目な息子”ぐらいしか聞いた事がないと思う。優しくて、出来れば素敵な人だといいな。

 ちなみに、私に彼氏はいない。女子高だし。それどころか、今まで男の子と付き合った事がない。もちろん、キスした事も。いつか素敵な男の子に出会い、ファーストキスを……というのが、目下私の夢だったりする。母にも誰にも内緒だけど。

 私の緊張や不安を和らげてくれるかのように、春の日差しが柔らかい、ある休日の午後だった。
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