鬼畜な兄と従順な妹
「そうなんだ? じゃあ、僕は”幸子”って呼ぶね。幸子は、”お兄ちゃん”って呼んでくれると嬉しいな」

"幸子"と呼ばれるのは全然いいけど、”お兄ちゃん”って呼ぶのは、子どもっぽくて嫌かも。”真一兄さんって呼ばせてもらえませんか?”って聞いてみようかな、なんて考えていたら、”お兄ちゃん”にジロッて睨まれてしまい、私は小さくなって、

「は、はい」

 と答えた。だって、お兄ちゃんに目で、”おい、返事は?”って言われたような気がしたから。優しいお兄ちゃんが、そんな言い方をするわけないけど、ただ、一瞬の事とは言え、私を睨んだ時のお兄ちゃんの目は、怖かったと思う。

「お二人のお荷物を運び終えました」

 と父の運転手さんが教えてくれ、

「では、私がお部屋までご案内いたします」

 と執事さんが言ってくれたのだけど、

「幸子には、僕が案内するね?」

 と、お兄ちゃんは言った。そして、お兄ちゃんは小声で執事さんに、私の部屋(!)の位置を聞き、執事さんが、”真一様のお部屋の隣でございます”と答えるのがしっかりと私の耳に届いた。私専用のお部屋をいただけて、しかもお兄ちゃんの部屋と隣り合わせと知り、私はとても嬉しかった。

「行こうか?」

 とお兄ちゃんに言われ、私は”はい”と返事をしようと思ったのだけど、それよりも早く、お兄ちゃんに手を握られてしまった。

 突然だし、まして男の子と手を繋いだ事もない私は、びっくりして手を引っ込めようとしたのだけど、お兄ちゃんに強い力でギュッと握られ、そのまま階段に向かって引っ張られてしまった。
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