鬼畜な兄と従順な妹
「おじさん、妹の幸子です」

 お兄ちゃんがその男性に私を紹介してくれた。ああ、この人はお兄ちゃんの叔父様なんだな、と思ったのだけど……

「幸子です。はじめまして」

「この人は画家の田原さん。父さんの昔からの親友なんだ」

 叔父様ではないらしい。

「真君、正確に紹介してほしいなあ。私は”売れない西洋画家”の田原です。やっと会えたね、幸子ちゃん」

 え?

「おっと……」

 田原さんは、”しまった”という表情をした。お顔はよく見えないから、たぶんだけど。

「おじさんは幸子を、前から知ってたんですか?」

「そりゃあ、まあね」

「もしかして、母さんも?」

「う、うん」

「なーんだ、知らないのは、僕だけだったのかあ」

 お兄ちゃんは笑いながら言ったのだけど、テーブルの下で手を強く握り締めるのを、私は見てしまった。

「いやあ、今日はまた一段と豪華なディナーだな。こんな日に来て、良かったのかね?」

 田原さんは、たぶん話題を変えるためにそう言い、父に顔を向けた。

「いつもの事だろ? 何を今更……」

 と、父は苦笑いを浮かべた。

 ああ、やっぱり今夜の料理は特別なんだ。それはそうよね。"少し"というのは、たぶん父が謙遜して母に言ったのだと思う。
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