鬼畜な兄と従順な妹
「幸子をよろしくお願いします。大人しい子なので……」

 加代子という女が言った。こっちの方は、結構気が強いと俺は見た。今はまだしおらしくしているが。

「はい、任せてください。学校もすぐ慣れるように、僕が色々教えてあげますから」

 そう。幸子という、俺と同い年の女は、俺が通う高校に編入する事になっている。いや、手の早いおやじの事だから、もう手続きは済んでいるのだろう。

 学校で、幸子をどうやって虐めようかな。まだノープランだが、楽しみだ。あ、そうだ。

「幸子さんって、何月生まれなんですか?」

 それを聞いておかないといけない。と言っても、この女の誕生日を知りたいのではない。俺より先に生まれたのか、それとも後か。それを知りたいだけだ。

「8月です。真一さんの妹になります」

 そう答えたのは幸子本人ではなく、加代子という元看護師の女だった。という事は、俺の誕生日が6月だという事を、この女は知っていたわけだ。しっかり情報取集してるんだな。

「そうなんだ? じゃあ、僕は”幸子”って呼ぶね。幸子は、”お兄ちゃん”って呼んでくれると嬉しいな」

 幸子は俺を見上げ、ぼーっとしていた。”おい、返事は?”と念を込め、俺は幸子を睨んだ。

「は、はい」

 蚊の鳴くような声だった。
< 3 / 109 >

この作品をシェア

pagetop