鬼畜な兄と従順な妹
 翌朝、俺と幸子は、爺やや他の使用人達と、忌わしい加代子という女に見送られ、家を出た。もちろん学校に行くためだ。

 今日は始業式だけだから、二人とも手ぶらで無言で歩き、バス停で駅に向かうバスを待った。

「あの、お兄ちゃん?」

「何だ?」

「バスに乗るんですか?」

「バス停にいるんだから、当たり前だろ?」

 幸子のやつ、変な事を聞くんだな、と思ったのだが……

「家の車で行くと思ったのか?」

「う、うん」

 やっぱりか。だから貧乏人は困るんだ。

「金持ちの子どもが、みんな送り迎え付きと思ったら大間違いだ。なかにはそういう奴もいるけどな」

 たとえば麗子さんのように。

 バスから電車に乗り継ぎ、駅を出て学校に向かって歩いて行くと、ちらほら同じ学校の連中が見えて来たが、どうやら俺と幸子は目立っているようだ。もっとも、俺は元々目立っていたが、今朝は、そんな俺が見知らぬ女と同伴だから尚更、という事だと思う。

 学校の門を通り、校舎に近づくと、生徒の人だかりが出来ていた。クラス替えの掲示板を見て、自分のクラスを確認しているらしい。

 さっそく3年の1組から見て行くと、俺の名前があった。ところが、"村山幸子"の表示がない。

 ひょっとして、幸子は旧姓で通すつもりか? 俺と他人のフリをするために。

 その可能性もあると思い、"幸子"を探し始めたのだが……

「あった。私は3組なんだ……」

 と、横で幸子が言い、3組を見ると、確かに"村山幸子"の表示がそこにはあった。
< 32 / 109 >

この作品をシェア

pagetop