鬼畜な兄と従順な妹
 福山先生が教室を出て行き、今日はこれで帰るわけだけど、私はどうすればいいのかな。帰りの道順はわかるから、一人でも帰れるのだけど、黙って帰ったらお兄ちゃんに怒られるかもしれない。

 かと言って、お兄ちゃんと帰ろうとしたら、”いちいち俺にまとわり付くな”って言われる気もする。どっちもあり得ると思い、迷っていたら、

「幸子ちゃんも電車通学だよね?」

 神徳君が話しかけてきた。

「はい、そうです」

「じゃあ、駅まで一緒に帰ろうよ」

「あ、はい……」

 断るのは神徳君に失礼だと思い、私は神徳君と帰る事にした。後でお兄ちゃんに何か言われるかもだけど、なるようになれだわ。帰りの事は、お兄ちゃんから何も言われていないのだし。

 神徳くんと並んで廊下を歩いていたら、突然誰かに後ろから肩を強い力で握られてしまった。

「きゃっ」

 私にそんな事をするのはこの人ぐらいなもので、振り向くと、お兄ちゃんが私を睨んでいた。
 
「幸子は、どこへ行くのかな?」

 目つきとは裏腹に、お兄ちゃんはゆっくりと落ち着いた声で言った。得意の猫被り。大嫌い!

「お、お兄ちゃん。私は、その……」

 私が言い淀んでいると、

「俺と駅まで一緒に帰るところさ」

 と、神徳君が爽やかな笑顔で言ってくれた。

「そうなのかい、幸子?」

「は、はい」

「そうか。でも、困ったなあ。幸子の事はくれぐれも頼むって、父からも君のお母さんからも言われてるからね、他の男と帰らせる訳には行かないんだ」

 なんだ。私はお兄ちゃんと帰ればいいのか。だったら、そう言っておいてくれればいいのに……
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