鬼畜な兄と従順な妹
「”幸子”って、ダサい名前よね?」

 はあ?

 いきなり何言ってんだろうか、麗子さんは。幸子の名前がどうこうなんて、俺は考えた事もないが……

 あ。ちょっと待て。幸子の”幸”って、おやじの名前の”幸久”から一字取ってんのか!

「くそっ」

 俺は今頃それに気付き、腹が立ってしまった。ちなみに俺の”真一”という名前は、村山グループの創始者で、俺の曾々祖父の名前をそのまま付けたものらしい。

「穏やかな真君でも、頭に来るわよね、あの女」

 え? 俺、口に出してたのかな。

「愛人の娘で、財産目当てなんでしょ? 噂を聞いたの」

「それはまあ、そうですね」

 その噂を流したのは俺なんだけどね。

「それだけじゃ飽き足りないらしく、今度は神徳君に色目を使ったりして、とんでもない女だわ。どこまで欲が深いのかしら!」

 ”神徳に色目を使ってるのは、むしろあなたでは?”と俺は言ってやりたかったが、もちろん黙っていた。

「あんな女、酷い目に合えばいいのよ。自業自得だわ」

 えっ?

 麗子さんがボソッと呟くように言うのを、俺は聞き逃さなかった。

「あんた、何を企んでるんだ?」

 俺は麗子さんの肩を掴み、睨み付けた。
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