鬼畜な兄と従順な妹
 なんて言われて、私はまた悲しくなってしまった。お兄ちゃんと私が恋人同士だったら、どんなに良かったか……

 涙が出て来て、それを春田先生に見られたくなくて、私は下を向いた。私の頰に氷を当ててくれているお兄ちゃんの手が、小刻みに払えているから、お兄ちゃんはきっと笑ってるんだと思う。

「あらま。私ったら、地雷を踏んじゃったみたい」

 春田先生がそう呟くのが聞こえ、何の事かなと思った時、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。そしてすぐにドアが開き、私は慌てて上着の前を手で合わせ、そっちを見たら、

「美紗子、帰ろうぜ」

 と言いながら現れたのは、私の担任の福山先生だった。

「あれ? 村山……と村山か。どうした?」

 福山先生は、私とお兄ちゃんを見て、びっくりしている。私は何て言えばいいのかな、と思ったのだけど、

「幸子ちゃんが、階段から落ちたのよ」

 春田先生がそう言ってくれた。

「あちゃー。大丈夫なのか?」

「顔が腫れてるけど、後は大丈夫よ」

「階段から落ちて、顔って腫れるものなのか?」

「うるさいわねえ。そういう事もあるの! もうすぐ終わるから、徹也は車で待ってて」

「わかったよ。村山兄妹、気を付けて帰れよ」

 私がコクンと頷くと、福山先生は素敵な笑顔を残し、ドアを閉めた。
< 63 / 109 >

この作品をシェア

pagetop