鬼畜な兄と従順な妹
 私はその後、ずっと迷っていた。直哉君の申し出を、受けるか受けないかを。

 考えてみたら、私には相談する相手が一人もいなかった。母には、肝心なお兄ちゃんへの想いを言う訳には行かないし、今の学校には、まだ相談事が出来るほどの友達はいないし、前の高校の友達にはなおさら無理だし。

 お風呂に入り、明日の予習をするために数学の教科書を開いたものの、全然頭に入って来ない。

 私はふと思った。相談は出来ないとしても、話をするぐらいなら出来る相手がいるじゃないかって。

 それは、お兄ちゃんだ。最近は私と距離を置くようになったお兄ちゃんと、話をしたくなった。というか、正直に言えば、前みたいにキスしてほしいかな、なんて……

 私は数学の教科書を胸に抱え、隣のお兄ちゃんの部屋に向かった。教科書は、咄嗟に考えた言い訳に使うつもり。

 緊張しながらお兄ちゃんの部屋のドアをノックして待つと、少ししてドアが開き、いつ見ても素敵なお兄ちゃんが、驚いた顔で私を凝視した。

「どうした?」

「あのね。数学で解らない所があるの。教えてくれる?」

「ふーん。わかった、入れよ」

「うん」

 やったー。
< 73 / 109 >

この作品をシェア

pagetop