鬼畜な兄と従順な妹
 直哉さんは私をギュッと抱きしめ、私は直哉さんの背中に腕を回した。そして直哉さんの男らしい顔が私の顔に近づき、目を閉じると、私の唇に直哉さんの唇が重ねられた。

 お兄ちゃんじゃない人との、初めてのキス。それなのに、お兄ちゃんとのキスを思い出してしまう私って、何なんだろう……

 お兄ちゃんの事で頭が一杯になり、でも、それはダメなんだと思うと悲しくなり、涙が込み上げて止まらなくなってしまった。

「幸子ちゃん、何で泣いてるんだい? 嬉し涙なら俺も嬉しいけど、そうじゃないよね?」

「ごめんなさい。私……」

「他に好きな奴がいるんだろ?」

「え?」

「前から何となく、そう思ってたんだ。幸子ちゃんは俺といても、いつも誰か他の男の事を想ってるんじゃないか、ってね。そいつの事を忘れさせたくてキスをしたんだけど、かえって逆効果だったみたいだね?」

「そ、そんな事は……」

「違うのかな? もし俺の勘違いなら、良かったんだけどね」

 私はもう、ごまかせないと思った。直哉さんもだけど、私自身を。お兄ちゃんじゃない誰かを好きになるなんて、やっぱり無理なんだ。
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