鬼畜な兄と従順な妹
新生活の始まり ~幸子~Side~
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「お母さん、本当に荷物はこれだけでいいの?」

「いいのよ。向こうで殆ど用意してくれるそうだから」

「ふーん」

 私は勉強道具と何日か分の着替えと、使い慣れた歯ブラシとか、そういう物をボストンバッグに詰めた。数泊の旅行に行く時と大して変わらない荷物の量だ。引っ越しだというのに。

「幸子、本当にいいの?」

「何言ってるのよ、お母さんったら。今更じゃない?」

 そう。今日はいよいよ引っ越し当日。そろそろ”お父さん”が迎えに来てくれる頃だ。

「そうなんだけど、幸子が無理してるんじゃないかと思って…… 今からでもお断り出来るのよ?」

「ううん、無理なんかしてないよ。大きなお家に住めて、”お父さん”と一緒に暮らせるんだもの。むしろ楽しみでしょうがないの。あ、”お兄さん”も出来るしね!」

 母と私は、ずっとこの狭いアパートで暮らしていた。母はついこの間までは看護師だったのだけど、いわゆるシングルマザー。私の父は、大きな会社の社長さんで、奥さんがいて、私と同い年の一人息子がいるらしい。

 つまり母は、お金持ちの愛人だった。ただし、私の養育費としての最低限のお金しか、受け取っていなかったみたいだけど。母の意向で。
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