鬼畜な兄と従順な妹
「これで岩を結んでさ、足に括り付ければいいんじゃないかな」

「あ、いいかも」

 二人で適度な大きさの岩を2つ見つけ、お兄ちゃんはぎこちない手つきで岩に紐を巻き付けた。

「お兄ちゃんって、不器用なんだね?」

「ひでえ言い方だな。だったらおまえがやるか?」

「ううん、私もブキだから」

「まあ、最低限外れなきゃいいんだろ?」

 お兄ちゃんはそう言って、2つの岩を紐でぶらさげてみた。岩がゴツゴツしてるから、外れる事はなさそうだった。

 私達は紐の片方を、自分の足首に結んだ。固結びで。

「怖いか?」

「うん。でも、お兄ちゃんが抱いてくれて、ずっとキスしてくれたら、大丈夫な気がする」

「俺も、同じ事を考えてたよ」

 お兄ちゃんは私の腰に手を回し、私はお兄ちゃんの首に腕を巻き付け、私達はしっかりと抱き合った。

「幸子、一緒に地獄へ行こうな?」

「それはイヤ」

「え?」

「私は天国に行きたい。地獄はイヤ」

「あはは。じゃあ、行先変更。天国行き、間もなく発車しまーす」

「うふふ。お兄ちゃんったら……」

 どちらからともなく私達は唇を合わせ、湖面に向かって重心を傾けていった。
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