鬼畜な兄と従順な妹
「おじさん。俺と幸子が兄妹じゃないって話、聞かせてもらえませんか?」

 俺はいよいよそれを聞き出そうと思った。ところが……

「うん、全部話すよ。でも、その前に私は髭を剃るから、君達はアトリエに行っててくれないか?」

 髭を剃るとか、アトリエに行けとか、俺はおじさんの真意を測りかねた。でも、おじさんが言うんだから仕方ない。

「うん、わかった。幸子、行こうか?」

「うん」

 俺は幸子を連れて、おじさんがアトリエにしているはずの部屋へ行ってみた。

 その部屋に入ると、確かイーゼルというと思うけど、三脚みたいなものに何かがあって、ビロードか何かの布が掛けられてあるのが目に入った。その布をそっと剥ぐと、大きな額に収められた、1枚の人物画が現れた。

 おじさんは風景画が専門のはずで、人物画がある事に驚いたが、その絵を見て、俺は更に驚いてしまった。なぜなら、その絵の人物は、どう見ても俺の母さんだったからだ。

「綺麗な人…… 知ってる人なの?」

 幸子がそう俺に聞いてきた。

「ああ。俺の母さんだと思う」

 幸子は息を飲み、俺は頭の中が真っ白になってしまった。なぜおじさんは、母さんの絵を描いたのだろうか。それにこの絵の母さんは、俺が知ってる母さんと、少し違う気がする。

 俺が知ってる、というか憶えている母さんは、とても綺麗な人だったけど、もっと冷めた顔をしていたと思う。ところが、この絵の母さんは、頬をほんのり紅く染めて微笑み、言ってみれば、少女のような初々しさがあると思う。
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