異世界の巫女姫は、提督さんの『偽』婚約者!?
「失礼します」

入って来たのは、すらりと背の高い女性の軍人さん。
ストレートのショートボブ、長い前髪を耳にかけた王子のようにカッコいい人だ。

「お食事をお持ちしました。何がいいのかわからなかったので、適当に見繕って来ましたが……」

王子の持った銀のトレイには、パンやスープ、お粥に卵焼きという日本人にわりと馴染み深いメニューが載っている。

「ご苦労。ああ、もう俺がやるから下がれ」

「はい、それでは。御用があればお呼び下さい」

王子は優雅に敬礼をし部屋を出た。
だけど、入ってから出て行くまで、ただの一度もこちらを見なかったのは何故!?
いや、見なかったのではなくて、見ようとしなかったのかも。
やだなぁ、どういう設定になってるのか知らないけど、そんなに私のこと嫌ってる人、出さなくても良くない?
夢なんだし………。
あれ、でも……やっぱり……これって不自然だよね?

「あの……これは夢、でしょうか?」

降って湧いた疑問が口から漏れた。
銀のトレイを受け取り、お粥を冷ましてくれていた男は、私の突然の言葉に手を止める。
そして、トレイをサイドボードに置くとその目を真っ直ぐこちらに向けて言った。

「昨日のことだ……那由多の進路に生体反応があるとソナーが探知して、救出ボートを出してみれば君が漂流していた。意識もなく、朦朧としていて危険な状態だった。それですぐに救助し、救命処置を行ったのだ」

そういえば……。
うっすらとしか覚えていないけど、そんなやり取りを遠くで聞いたような気がする。
ん?だとすると……これまでの……この……夢のような出来事は!?

「夢ではないと!言うことでしょうか?」

「夢ではない」

リアルかーーーーーーーー!
一気に目が冴えた!
ということは、私は昨日嫌がるこの男を無理やり抱き締め、全裸になり?いや全裸にしたのかも……そして、あんなことやこんなこと……はちっとも覚えてないけど、とにかくやらかしたというわけだ!!

「とにかく助かって良かった。せっかく見つかったのに死なれてはたまらんからな」

「見つかった??とは?」

男はそこで初めて怪訝な顔をした。

「おい、記憶喪失か何かか?……君は三日前船から姿を消して、行方不明になってたんだ」

何のことでしょう?!
船から転落して、変な世界に飛ばされてはおりますけどね!!

「……あとで、医者に見てもらわないとな」

「あ、あの?あなたはどちら様で?」

「………何の冗談だ?まぁいい。俺は楸鷹人(ひさぎたかひと)、君の婚約者だ」
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