異世界の巫女姫は、提督さんの『偽』婚約者!?
「お嬢様、その姿は?」

少尉さんは提督さんより驚かず、何か珍しいものを見たというように私を凝視した。

「あ、うん。ちょっと着るものがなかったので、これを借りました」

「着るものがなかった……?あっ!」

良かった、少尉さんは普通の感性の持ち主だったらしい。
チラリと魔のワンピースクローゼットを見ると、すぐにこちらに目を戻し深く2回頷いた。

「お可愛らしいですよ!それになんというか……その方が……」

「え?」

「あ、いえ!何でもないですよ。さぁ、昼食をどうぞ。そちらでお召し上がりになりますか?」

と、今座っているテーブルの方を見る。

「あ、はい。こっちでいただきます。お手数かけてすみません」

「いえ!このくらいなんともありませんよ」

少尉さんはニコニコしながら、私の前にトレイを置いた。
その時、ずっと変な視線を送っていた提督さんがついに口を開いたのだ。

「冬島、お前………そんなにすずなと仲が良かったか?」

お!?
ヤバい。
そう思って少尉さんを見ると、彼女の目も泳いでいる。
そうか!少尉さんも私が偽物だと知っているんだ。
たぶん、フレディに聞いて。
そうだよね、お世話してもらう人なんだからそれは知っておいた方がいいよね!

「えと、それは記憶のない私のことを気の毒だと思って?ではないかと……」

「そうなのか??冬島?」

少尉さんは素早く姿勢を整えると、泳いでいた目をカッと見開いて、提督さんに言った。

「そうであります!!」

「ふーん、そうか。まぁ、頼むよ」

さすが提督さん。
物事にあまり拘らない(鈍感)性格、素敵です。
色々話が纏まったところで、私は漸く昼食に手を付け始めた。
お粥は雑炊になり量が増え、サラダが少量付き、手作り風のハムも付いている。
この船で自給自足しているのかと、不思議な気もしたけど、味はとても美味しかった。
そして、私が食事を頬張る姿を、何故か提督さんも少尉さんもずーっと見ている。
ずーーっと。
何がおもしろいの?食べにくいったらないんだけど!
だけど、見ないで!というのも、気が引ける。
一応私、居候だし、もっと言えば詐欺師だし?
と、思いながら食べていたら、目の前の提督さんがスッと立ち上がり言った。

「じゃあ、オレは仕事に戻る。冬島、あとは頼む」

「はっ!」

「すずな、後でな」

「え、あ、は、はい!!」

私を見て、軽く笑って頷くと提督さんは部屋を去った。
残された少尉さんはふぅと大きく息を吐き、後ろに組んでいた手をダラリと垂らす。
軍人さんって大変よね、しかも女性でなんて苦労も多いだろうな。
そんな私の視線に気付いて、少尉さんは恥ずかしそうに笑う。

「お嬢様、いえ、セリさん。さっきはすみません。助けてもらっちゃって」

「いえいえ。でも少尉さん、やっぱり私のこと……知ってたのね」

「ええ、柏木医師から聞きました。彼とは気が合いましてね、というかクソ女をどうやって追い落とすかをずっと計画していたんですよ!」

………ああ、ここにも素敵な笑顔で悪巧みする人がいるぅ!!
怖いよぉーー!
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