背中に、羽を。
「そうだよ」
僕が返すと、天使は「ふーん」と言った。
なんてつまらない会話だろう。
けれど、それでもいいと思った。
「君の仕事は……なに?
僕らみたいな死にたいひとを、助けることじゃないんでしょ?」
ナイフを握る手に、力がこもる。
退屈な入院生活。単調な日々。憎い白。
すべてを汚してやりたかった。
いまから僕は、このナイフで、首をかっ切る。
僕を囲う、真っ白な檻を、真っ赤に染めてやりたいのだ。
「僕は……君を助けることは、できないよ。
だけど、死後に君が行くべき世界へと、導く役割をもってるんだ。
君が死ぬのを待つためにここにきた」
やっぱり、そうか。
さすがに、無理だよね。天使だからって、僕をここから出して、幸せにしてくれるわけじゃないよね。