背中に、羽を。



悲しいとも寂しいとも言えない、不思議な感情が僕を渦巻く。



「君が生きるつもりなら、それでもいいんだよ」



天使が僕の顔を覗きこんだ。



透き通るようにみずみずしくみえる彼の手が、僕の頬をふれようとする。



……が、天界の者とこの世界の者。



どこまでも、交わることをゆるしてくれない。



「いや、生きないさ」



はっきりと口にした。



そこまではよかった。けれど。



途端に、右手がガタガタと震えだし、ナイフの刃が何重にも霞んでみえる。



「死ぬのは、怖い?」



天使が問いかけた。



怖いと言うのは、いやだった。



意気地無しの僕は、変わりたいのに。



こんなに素敵な天使を前に、弱気になんてなりたくないのに。



……声が震えそうで、言葉がでてこない。
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