背中に、羽を。
「天使がいるってことは……悪魔もいるの?」
ささやくように言うと、彼は目をぱちぱちさせた。
「いるよ。どうしたの?」
「いるんだね……」
僕がしゅんとしながら言うと、「いやなの?」と訊かれた。
どうなのか、僕自身にもわからなかった。
曖昧に笑って誤魔化すと、天使は首をかしげた。
困ったら笑うというのは、僕らの世界でだけ行われている、おかしなことなのだと知った。
「悪魔は……どんなことが仕事なの?」
「死んだひとを、地獄につれていくことだよ」
天使は、なんでも答えてくれる。
隠し事をしない。
人間とは違くて、だけどそこがいいと思った。
気をつかって隠し事をされるのは、きらいだから。