turning
ターニング
「確かに最近将棋ブームだけどさ、棋士との対談って、安易にブームに乗っかりすぎじゃね? 俺、将棋のこと全然わかんないんだけど」
私が運転する車の助手席で、漆原建がぼやいた。
漆原建はクラシックのプロヴァイオリニストで、私、三日月千鶴は彼のマネージャーをしている。
今日はこれからクラシック音楽雑誌の企画で、彼と将棋の棋士との対談があるのだ。
「でも、相手の棋士……名前何だっけ」
「上条庸介」
「彼はクラシック詳しいんだろ?」
「そのようですね」
「対談相手に俺を指名してきたとは、なかなかセンスがある」
「そうですね」
「同い年か」
「そのようですね」
「ということは三日月とも同い年ってことだ」
「そうですね」
「プロ棋士ってすごいの?」
「それはすごいと思います」
「どこらへんが?」
「現役のプロ棋士は確か160人くらいしかいません。音楽家のように自由にプロを名乗れるわけではないので」
「へぇ。詳しいな」
「もうすぐ着きます」
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