turning
お互い無言だった。


漆原が上条君との対談を受けることになった時から、心の準備はしていた。でもそれは、挫折の苦い思い出とか、眩し過ぎる青春とか、妬みとか、自分の中のマイナス感情と向き合う覚悟だった。

まさか、こんな展開になるなんて、思っていなかった。

さっき、真っ直ぐに『好きだった』と言われた時に分かった。
私が上条君に対して何でも言えたのは、彼の好意に甘えていたからだ。
それは再会した今日も同じ。
彼はさっき過去形で告げたけれど、じゃあ今発せられている、このしっとりした色気は何なのだ。

助手席に人を乗せるのは、漆原で慣れている。

例えば100人の女性に、上条君と漆原、どちらが色っぽいかときいたら、99人は漆原と答えるだろう。

ところが。

漆原が無駄に垂れ流す色気は受け流すことはできるのに、今の私ときたら、ただ座っているだけの上条君の存在が、受け流せない。

普段は自制している、女としての感性が反応してしまう。

平たく言うと、

……ドキドキしてしまっているのだ。


仕事柄、業界の第一線で活躍する男性はたくさん見てきた。
おかげで免疫ができているし、元々自制心は強いと自負しているから、ちょっとやそっとのことではときめかない。

だけど上条君の場合は、少年のままのあどけなさと、大人の色っぽさと、勝負師の強さが入り混じり、私にとってはかなりの『いい男』になっている。

……惹かれている自分を認めざるをえない。




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