turning
翌朝。

漆原が住むマンションの車寄せに停車し、車を降りる。

朝日が眩しい。

春の青空は、パキッとした青ではなく、どことなく優しい青。
スッキリ爽やかというより、穏やかな気持ち良さを感じる。

エントランスから漆原が出てきた。
ヴァイオリンケースを背負って、大きなスーツケースを転がしている。

「おはようございます」

「おはよう。あ、キスマーク」

「朝から何馬鹿なことおっしゃってるんですか。身に覚えがありません」

「なーんだ」

トランクを開けると漆原はスーツケースを入れた。
彼はこれから地球の裏側、アルゼンチンへと向かう。
現地では、共演するオーケストラ事務局の方が面倒を見てくれるので、私は同行しない。空港まで送るだけだ。
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