turning
ホールのホワイエ、大きなガラス窓の前に対談場所がセッティングされている。

漆原と私は壁際で開始を待っている。

視線の先には、カメラマンに服装や髪型を整えてもらっているスーツ姿の上条君。

「あまり会いたくなかった感じ?」

漆原の問いに、仕方なく返事をする。

「……別に、気づかれないならそれで構わなかったんです」

「ふぅん。どうりで様子がおかしかったわけだ」

……意外なような、そうでないような。

漆原が結構繊細に人を観察しているのは知っていた。
でも、それが私に向けられ、個人的な話をしたのは初めてだったのだ。

「さて、そろそろかな。こいつのこと頼むわ」

彼は背負っていたヴァイオリンケースを降ろし、私に寄越した。
慎重に、しっかりと受け止る。
中身は某財団から貸与されているストラディバリウスだからだ。

「行ってらっしゃい」



< 3 / 18 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop