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対談は、ライターさんが進行する形で始まった。

「最近の将棋ブームについて、漆原さんはどのように感じていらっしゃいますか?」

「すごいですね。私のような将棋を全く知らない人間の耳にも入ってくるくらいで、その深遠な世界には興味をかきたてられます。
将棋を始める人も増えているとか。正直羨ましい」

上条君が口を開く。

「漆原さんが18歳で国際コンクールに優勝した時も、日本では結構なクラシックブーム・ヴァイオリンブームが起きましたよ。
私も実はそこから漆原さんのファンになって、クラシックを本格的に聴き始めたんです」

「おお、嬉しい。ありがとうございます」

「漆原さんがもしあのまま日本で活動を続けられていたら、もっとブームは続いたと思いますよ」

若きイケメン天才ヴァイオリニスト。
メディアの取り上げ方はアイドルのようだった。
ところが約一年後、突然漆原は日本での演奏活動を止め、アメリカに留学してしまったのだ。
ブームは終わった。

上条君が続ける。

「いえ、私としては留学という選択を否定するわけではありません。今に至るまでの漆原さんの活躍ぶりを見ていると、正しかったのだと思います」

確かに、あのままちやほやされて消費しつくされていたら、世界各地からオファーが来る今の漆原がいたかどうか。

「ありがとう」

「ずっと気になっていたんですが、留学という判断はご自身だけでされたんですか?」

「希望したのは私ですが、マネージメント会社と相談して決定しました。その決断も、その後の育てられ方も、感謝しています」

私が勤める会社だ。
私がこの会社を志望したのも、アーティストを育てていく姿勢に共感したからだった。




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