turning
*
ひと気のない特別教室棟の、狭い音楽準備室。
高校時代、とにかく時間が惜しかった私達は、よくそこで昼休みを過ごした。
音大受験を目指している私に、音楽の先生がこっそり開けてくれていたのだ。
私は譜読みをしたり音源を聴いたり。
上条君は棋譜並べをしたり詰将棋を解いたり。
「今日は誰の何?」
イヤホンを耳に差し込む私に、上条君が尋ねた。
恒例のやりとりだ。
「ジョコンダ・デ・ヴィートのブラームスのヴァイオリンソナタ1番。イタリアの女性ヴァイオリニストなんだけど、イタリア人だけあって、もう、めっちゃ歌心に溢れてるわけ。楽器で歌うってこういうことなんだなって思い知らされるの」
「へぇ」
上条君は私の答えに満足したように、将棋盤を広げた。
背筋を伸ばし、スッスッと駒を並べていく。
その姿はとても綺麗で、しばし鑑賞するのがこれまた恒例だった。
クラスメイトの間では、私達が付き合ってると思っていた人もいるみたいだけど、そんな関係ではなかった。
私は恋愛している時間が惜しいと思っていたし、上条君は将棋の師匠から“プロ棋士になるまで恋愛禁止”と言い渡されていた。
上条君の言った通り、戦友。
少なくとも、私はそう思っていた。
ひと気のない特別教室棟の、狭い音楽準備室。
高校時代、とにかく時間が惜しかった私達は、よくそこで昼休みを過ごした。
音大受験を目指している私に、音楽の先生がこっそり開けてくれていたのだ。
私は譜読みをしたり音源を聴いたり。
上条君は棋譜並べをしたり詰将棋を解いたり。
「今日は誰の何?」
イヤホンを耳に差し込む私に、上条君が尋ねた。
恒例のやりとりだ。
「ジョコンダ・デ・ヴィートのブラームスのヴァイオリンソナタ1番。イタリアの女性ヴァイオリニストなんだけど、イタリア人だけあって、もう、めっちゃ歌心に溢れてるわけ。楽器で歌うってこういうことなんだなって思い知らされるの」
「へぇ」
上条君は私の答えに満足したように、将棋盤を広げた。
背筋を伸ばし、スッスッと駒を並べていく。
その姿はとても綺麗で、しばし鑑賞するのがこれまた恒例だった。
クラスメイトの間では、私達が付き合ってると思っていた人もいるみたいだけど、そんな関係ではなかった。
私は恋愛している時間が惜しいと思っていたし、上条君は将棋の師匠から“プロ棋士になるまで恋愛禁止”と言い渡されていた。
上条君の言った通り、戦友。
少なくとも、私はそう思っていた。