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「でもその友人は、高3の夏にヴァイオリンをやめてしまったんです」

「どうしてですか?」

ライターさんが尋ねる。

ほぼ相槌のような質問に、私の心の古傷がキリリと痛んだ。

上条君は少し困ったように考えてから、答えた。

「色々と思うところがあったみたいで」

優しい。

正直に話せば、いいネタになるのに。

「ただ、私にはそれが契機となりました。
身近で、努力を重ねてきた人が人生の方向転換を選ばざるを得なかった状況を見て、私は将棋の世界で生きていく希望と覚悟を持てるのなら、何としてもそれを突き詰めていかねばならないと思うようになったんです」

目を見張った。

そんなこと思っていたんだ。

それならば、ヴァイオリンの先生にも高校の音楽の先生にも親にも誰にも言えなかったヴァイオリンをやめた理由を、彼にだけは正直に話してよかったと思えた。

「ちょうど漆原さんが国際コンクールで優勝した夏です。私にとって、同い年の人が世界を舞台に活躍する姿は、非常に刺激になりました」

「そして、高校を卒業する春に、四段昇段を決めて、晴れてプロ棋士になられたわけですね」

ライターさんの言葉に、上条君が控えめに微笑んだ。





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