turning
対談を終え、漆原が何やら上条君と話しこんでから、私の元へやってきた。

「お疲れ様でした」

彼は、私が差し出したヴァイオリンケースを丁寧に受け取りながら、

「いい男じゃん」

と言った。

「そうですね」

「さっきの友人って三日月?」

「ええまあ」

「なるほど会いたくない気持ちもわからないではないな。だけど、せっかくのいい機会だろ。
彼はこの後都内で将棋の研究会とやらがあるそうだから、送ってあげて。俺はひとりで帰るから」

「それは余計なお節介なのでは」

「もう了解得てあるから。道中、積もる話でもしてきたらいい。ああそうそう、彼は独り身だって」

「何か大きな勘違いをされていませんか」

「音楽家はロマンチストなんだ」

漆原は上条君を呼び寄せた。

そして、よそ行きの笑顔で、

「今日はお疲れ様でした。三日月は車で来てるから次の仕事先まで送らせてもらいます」

と言い残し、憎たらしいくらい颯爽と去っていった。

「えっと……」

上条君が困ったように私の方を見るので、仕方なく言う。

「お送りします」





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