SHALIMAR -愛の殿堂-
夜の仕事―――かぁ。
まぁそう言われてみればそうかもしれない。
あの黒に近い深い赤色のマニキュアとか、普通の職業じゃちょっとないよな??
何してる人なんだろう。
「今度お前んち行く!
“美しい隣人”を見に行く!仲間 由紀恵を見に行く!」
てか仲間 由紀恵じゃないし。ありゃドラマだろ??ってか似てないし…
吉住が意気込み、俺はそれを軽く受け流した。
―――…吉住じゃないが、『夜のお仕事』と聞いて俺はちょっと隣人のことが気になり始めた。
何せ俺の周りにはそういう職業の友人知人が居たことがないから。まったく別世界だ。
新学期もはじまり一ヶ月も過ぎると、その間に俺は隣人の生活を少しだけ知ることができた。
例えば、朝は大抵7時に目覚ましが鳴るとか。
帰りは遅くて、と言っても日が超えるぎりぎりってところか。
夜中の一時ぐらいに彼女がベランダに出て、数分…或いは数十分の間そこで何かをしているとか…
何でそんなことが分かるかって??
家賃¥60,000のマンションの壁はだてじゃない。ようは薄いってことだ。
そりゃもう某回転寿司チェーン店のネタのように。
マンションの階段を上り下りする音や、部屋の扉を開け閉めする音、ベランダの窓を開ける音―――
たまに彼女の喋り声も聞こえたりする。
と言っても聞こえるのは彼女の声だけで(内容はさすがに分からない)、他に誰かが来ている様子はない。
電話でもしてるんだろうな。
言っておくが、決して聞き耳立ててるわけじゃないぞ!
聞こえてくるんだ!
煩いとか耳障りとかじゃないけど、何となく―――…気になる。