SHALIMAR -愛の殿堂-



「てか俺んところに来なくてもお前はよりどりみどりだろ」


俺が吉住を睨むと、


「だって~年上の(美人な)おね~さんて、なかなかお近づきになれないし~」


吉住はまたも軽い調子で肩をすくめてにっと笑う。


「お前なぁ…」


呆れて言うと、


「お♪年上女と噂すれば。アイスクイーン登場だ」


みんな近所に住んでるんだろうな。大体現れる客の顔ぶれが決まってくる。


その客たちに吉住が勝手に名前をつけてるわけである。


『ミスウェンズデイ』とか。(毎週水曜日に現れるから)『いちごちゃん』は財布がイチゴ柄だからとか…


女ばっかりだな。


でもアイスクイーンってのは初めてだ。


「氷の女王♪とにかく謎めいているだよな。にこりとも笑わないの。すっげぇ冷たい感じ」


冷たいと言う割りには楽しそうにしている吉住が、目配せした視線の先には淡いベージュのスーツ姿の女。


細くて高いピンヒールを鳴らしながら、買いものカゴを手にこちらに向かってくる。


なるほど、アイスクイーンか。


明るめの栗色の髪を後ろで纏め上げて、口元には赤い口紅。


いかにもデキそうなキャリアウーマンっぽい。少しも隙がなさそうだ。美人だけど冷たそう。ついでに気位も高そうだ。


俺なんて相手にされない。見るからに敷居の高そうな女。


「いらっしゃいませ~♪こちらにどうぞ~」


吉住はよそ行きの声でにこにこ営業スマイル。


ああ。この笑顔に騙される女が大勢居るんだろうな―――


なんて思ってぼんやりとアイスクイーンを見ていると、


彼女はちょっと俺と吉住のレジをちらりと見やったのち(ちなみに両方開いていた)、ほとんど迷いなく俺のレジへ来た。


え??


吉住じゃなく俺?





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