SHALIMAR -愛の殿堂-


俺は戸惑ったものの、彼女は特に食品レジのアルバイトに深い意味なんて持ってないだろう。


憐れ吉住。お前のキラースマイルでも氷の女王の心を溶かすことはできなかったな。


ふふん、とちょっと勝ち誇ったドヤ顔で、


「いらっしゃいませ」


それでも挨拶をするときは声が僅かに上ずった。


すぐ前で吉住が面白くなさそうに唇を尖らせている。


アイスクイーンはカゴを台に置くと、


「ポイントカードあります」と言ってカードを差し出してきた。


ちなみにこのレジは先にカードをスキャンして、商品をバーコードで読み取る際にポイントが加算されると言う仕組みだ。


人差し指と中指で挟まれたカードを差し出すその仕草がスマートで大人の仕草を思わせた。





深い赤色のマニキュア



それに……この声…


少しくぐもった。けだるそうな……






ポイントカードを受け取る際にちらりと顔を見た。


きりりとした眉にマスカラでコーティングされた睫。


一瞬…ほんの一瞬、俺の部屋の隣人を思い浮かべたが、


うーん…化粧もしてるしメガネもないし、しかもこないだはほんの一瞬しか顔を見てない。同一人物かどうか分からん。


しかもこんな運命(?)的なタイミングってないだろ。


ゴミ捨て場でばったり、なんて確率を外すぐらいだからな。


うん、そうだ。ありえない。


なんて勝手に結論付けて、俺は商品をスキャンしていった。


カゴの中の商品はネギと木綿豆腐。食パンと……


俺は一本の大きな瓶を手にとって目をまばたいた。


淡い琥珀色をした瓶は、ウィスキーの…瓶??


ひ…一人で飲むのだろうか。


いやいや、独り暮らしじゃないかもしれないし?


うーん…謎だ。


色々気になるところはあったが、無事スキャンを終えそれを見計らってレジの前にアイスクイーンが移動する。



ふわり



そのとき香ってきた。





この香り―――……






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