SHALIMAR -愛の殿堂-
それでも一度気になりだすと、とことん気になる。
自分の部屋に帰っても俺はそわそわと落ち着かなかった。
深夜2時を過ぎたあたりで―――
カラカラ…
隣の部屋のベランダの窓が開く音が聞こえた。
いつもならそれほど気にならないけど、今日は何故か気になってその音に耳を澄ます。
サンダルを引っ掛ける音がして、それ以来音と言う音が途切れた。
な、何やってんだろ…
いけないと思いつつ、俺は彼女が何をしているのか知りたくて自分もそっとベランダに出た。
ガーデニングでもしてるのかな。
ベランダにはいっぱい鉢植えがあって。なんてのを想像してみる。
いかにもそういうのが似合いそうだ。
だけど風に乗って香ってきたのは花や果物の香りではなく、また部屋から香ってくるふわりとした上品な香りでもなく。
もっと濃厚なバニラの香りだった。
そうすることで何かが分かるわけでもないけど、俺は隣のベランダと隔てる壁をじっと見つめていた。
そのときだった。
「ごめんなさい。煙かった?」
乾いた声。
けだるそうな喋り方は変わらないけど、でもその喋り方が妙に色っぽい。
びっくりした。
いや、俺に話しかけたわけじゃないよな?
物音だって立ててないはずだし。
だけど
「そこに居るんでしょう?
お隣さん」
そう聞かれて、俺は目を開いた。