SHALIMAR -愛の殿堂-
これじゃストーカーじゃないか!いや…実際、ストーカーみたいなことしてたよな俺……
一人で慌てふためいていると、
「まぁね。部屋でふかすと匂いがこもるから」
と彼女は気にしていない様子でさらりと返してきた。
あれ??気にしてない?
それどころか、
「挨拶のお礼してなかったね。ねぇ麻婆豆腐って好き?」
麻婆豆腐??
「はぁ、まぁ好きっスけど…」
「そう?じゃ、そこで待ってて」
俺は彼女に言われた通り、その場でじっと待っていた。
彼女は数分で戻ってきたらしく、ベランダを隔てる壁をトントンと軽く叩いて、
俺が僅かに顔を出すと、隣からも彼女が顔を覗かせていた。
さっきのスーツ姿から一転、一番最初に見たときの姿。
すっぴんにメガネ姿だった。髪も解かれている。
ドキリ、一瞬胸が鳴って俺は慌てて俯いた。
「これ。晩御飯の残りで悪いんだけど、作りすぎちゃったからあげる」
そう言ってベランダから出した手の先には四角いタッパーに入った麻婆豆腐??
「え?いいんスか?」
思わず聞くと、
「お口に合うかどうかわかんないけど」
名前も知らない彼女がちょっと笑みを浮かべる。
はじめてみるその笑顔に―――
ドキリ
俺の胸がまた音を立てた。