SHALIMAR -愛の殿堂-
葉巻の話しの答えを彼女はちゃんと教えてくれた。
それは中途半端に話しを終えた、三日後のことだった。
「タバコはね、煙を肺に入れて口から吐き出すの。でも葉巻は香りを愉しむものなの。
口の中でその香りを転がして、ゆっくりと吐き出すんだよ」
それは俺の知らない世界。大人の話。
「へー…そうだったんスね。でも何で好きじゃないのに吸ってるんですか?…あ、葉巻の方」
「つまみになるから」
その日彼女はまたも手を出して、俺にグラスを見せてくれた。
薄い琥珀色の液体が入っていて大きな氷がある。
もしかしてにこにこマートで見た、あのウィスキー??
「葉巻のウィスキーっておっさんみたいでしょ」
彼女は明るく笑う。
「…いえ!そんなことは。大人でかっこいいな~とは思いますけど」
「かっこいい?ありがと」
彼女は声をたててちょっと嬉しそうに笑った。
「そんなこと言われたのはじめて」
よし!掴みはオッケー??
調子に乗ってまた聞いてみる。
「う、ウィスキー意外には何が好きなんですか?」
「うーん、色々。でも一番好きなのは―――」
そう言って彼女はまたも柔らかく笑った。
「また次にお話しするよ」
また次かよ……
最初はその「また次」ってのを聞くと、早く会話を打ち切りたいのかな、ってちらっと思った気がしたけど、
彼女は必ず前に打ち切った会話の答えを教えてくれる。
「それじゃあね」
とあっさり別れてしまうより、俺はそっちの方が良かった。
それは“次”に繋がる無言の約束。